励磁突入電流は、無負荷の変圧器へ電圧を加えた瞬間に鉄心が飽和して流れる一時的な大電流です。負荷の過電流や短絡事故とは異なりますが、OCR(過電流継電器)やPF(高圧限流ヒューズ)の動作領域と重なると、正常な投入で遮断・溶断することがあります。対策はOCRの設定値を単純に上げることではなく、変圧器メーカーの突入電流曲線、PF・OCR・VCBの動作特性、変圧器の保護限界を同じ時間―電流図へ重ねて確認することです。

投入位相と残留磁束で大きさが変わる
変圧器を投入するとき、電圧の投入位相と鉄心に残る磁束の組合せによって磁束が偏り、鉄心が一時的に飽和します。結果として定格運転時の励磁電流よりはるかに大きい非対称な電流が流れ、時間とともに減衰します。毎回同じ大きさになるとは限りません。
三菱電機の技術資料は、第1波の最大波高値が定格電流波高値の10数倍から40数倍になる場合があると説明しています。これは波高値の倍率であり、OCR整定に用いる実効値や時限へそのまま置き換えてはいけません。変圧器容量・結線・鉄心・投入条件ごとのメーカー曲線を使います。
| 項目 | 励磁突入電流 | 短絡・過電流 |
|---|---|---|
| 発生 | 変圧器の投入直後 | 設備事故・負荷異常時 |
| 時間変化 | 通常は減衰する | 事故が続く間は継続し得る |
| 主な確認 | メーカーの突入曲線 | 短絡電流計算・保護協調 |
| 対策 | 整定協調・順次投入・抑制装置 | 故障区間の速やかな遮断 |
OCR・PF・VCBの時間―電流特性を一枚に重ねる
保護協調図には、通常負荷電流、変圧器の励磁突入電流曲線、OCRの限時・瞬時要素、PFの溶断特性、VCBの遮断時間、変圧器の熱的・機械的な保護限界を載せます。突入電流では不要動作せず、短絡事故では設備の許容時間内に遮断する領域を確保します。
低圧側ブレーカーも同様です。三菱電機の選定例は、変圧器一次側ブレーカーについて定格電流に余裕を持たせることに加え、励磁突入電流が瞬時引外し特性を下回ることを確認するよう示しています。特定メーカーの倍率を他社機器へ流用せず、採用機器の特性曲線で照合します。
- ✓電流軸の基準を一次側・二次側のどちらかへ換算して統一する
- ✓実効値と波高値、対数軸、変流器比を取り違えない
- ✓上位系統と下位遮断器の選択遮断も同じ図で確認する
- ✓整定変更は電気主任技術者、設計者、保護装置メーカーと協議する
複数台を一斉投入すると復電時のリスクが増える
工場の停電復旧時に複数の変圧器を同時投入すると、突入電流が重なり、受電点の電圧低下や上位保護の動作につながることがあります。変圧器ごとにVCBやLBSがある場合は、投入順序と時間間隔を決め、重要負荷の復旧手順へ反映します。
JEMAは、短時間に変圧器の励磁突入電流が繰り返し流れると高圧限流ヒューズが疲労し、不要溶断するおそれがあるとして、変圧器の入切回数を必要最小限にするよう注意を促しています。停電試験、瞬時停電、自動復旧が重なる運用では、PFの繰返し過電流特性も確認します。
抑制装置は電圧降下と運用条件から選ぶ
順次投入で解決できない場合は、投入位相制御、抵抗やリアクトルを使う抑制方式などを検討します。三菱電機は、JEAC 8011で配電線電圧降下が10%を超える場合に励磁突入電流の抑制を検討する趣旨を紹介しています。実際の要否は、系統インピーダンス、変圧器容量、台数、契約先の条件を使った計算で判断します。
抑制装置を入れても、短絡保護やPF・OCRの協調確認は省略できません。設備改修では、単線結線図、保護協調図、変圧器試験成績書、OCR試験結果、投入手順を一組で更新します。活線状態での確認や無計画な繰返し投入は行わず、資格者が停電計画と安全手順に従います。
よくある質問
Q.突入電流は変圧器の故障ですか?
A.投入時に生じる物理現象で、直ちに故障とは限りません。ただし長く続く、毎回保護が動作する、異音・異臭がある場合は原因調査が必要です。
Q.OCRの瞬時要素を高くすれば解決しますか?
A.事故時の保護が遅れたり、上位保護との協調を失ったりします。突入曲線と短絡電流、機器耐量を重ねて整定してください。
Q.停電復旧時は一斉投入してよいですか?
A.複数台の突入が重なるため、受電設備と系統条件を確認し、原則として手順化した順次投入を検討します。
POINT
この記事のまとめ
励磁突入電流は、波高値の倍率だけで判断せず、メーカー曲線をPF・OCR・VCB・変圧器耐量と同じ時間―電流図に重ねます。複数台の復電手順と繰返し投入によるPF疲労まで含めて保護協調を確認してください。
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参考にした一次情報
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